12時、パスタ―Zから指令されたTKビルというところにいった。
安間氏が持っていた業務用カメラを入り口で取り上げられそうになった。
政府が発行している許可証を見せたがなかなかいれてくれない。
7Fのオフィスに連れていかれ事情聴取の後、最後にはようやくカメラ持ち込みで屋上のレストランに入ることができた。
空港やアディスアベバの街を一望できるポイントだったが撮影することは禁じられていた。
民族紛争で百人以上が亡くなっていることと、周りをイスラムの国に囲まれ国境沿いには常に危険があるということから、セキュリテイレベルが高いらしい。なんと言っても、1ヶ月で2万6千人も一挙に逮捕したというのだから。
HEAVENESEの存在意義をのべてくれた"Z"
しばらく遅れてきたパスターZが着席するや否や、山積みになっていた質問を彼にぶつけてみた。それに対する彼の答えがすべてに対する答えを与えてくれた。
彼と話さなければエチオピアのステージに確信を持って立つ事は出来なかっただろう。
”エチオピア人は三つの誇りを抱いている!”
彼の話はこうだった。
エチオピア人は基本的に三つの側面で強い誇りを抱いている。
ます第一に宗教的なプライドだ。それは世界最古のキリスト教国であるというプライド。
そして政治的にも強いプライドを抱いている。
それは一度もヨーロッパの植民地にならなかったという事実だ。
そして、最後に人類史的にも強いプライドを抱いている。
それはエチオピアこそ人類発祥の地だというプライドだ。
そして、エチオピアは三つグループに分かれている。
一つはエチオピア正教、一つはプロテスタント、そしてもう一つはイスラム教だ。
この三つのどれかに属しているのがエチオピア人である。
ごくごく少数が土着の宗教や無神論だが、基本的にこれら三つに属していないとエチオピアの社会に入ることができない。
この三つのグループは表面的には平和を保ち仲良く生活している。
しかし深いところでは分断がある。
その分断は伝統的に出来上がってしまったものだ。
エチオピア正教は世界で最も古いキリスト教国家であるという自負から伝統主義に陥り、聖書は読まずにただ伝統を重んじている。
その伝統を守るとうい点において非常に宗教的だ。
彼の話を聞きながら思った。
一つ一つの儀式の意味や本質にこだわるよりも、しきたりを守るということに力点が置かれているその有り様が、まるで日本の神道のようだなと。
”どこにも属していないからこそ、HEAVENESEは神から遣わされた使者なのだ!”
プロテスタントは、1963年にパスターZの父親たちが初めて聖書を読み、祈り始めたことによっておこった大運動で、それがエチオピア全土に火のように広がった。
パスターZの父親は、”エチオピアプロテスタントの父”の一人だという。
彼らは伝統を尊重しつつも、伝統主義ではなく聖書主義に立つ。
この運動は、伝統主義からの脱却でもあったので、当然のことながら伝統的正教と反目した。正教は過剰な律法主義的伝統主義だ。
そしてもう一つはイスラムだから、キリスト教との間には宗教的な分離がある。この三つ巴の状態を超えたところに政府があるので、政府はより世俗主義にならざるをえない。
どこにも属していないという立場でなければならないからだ。
だから、政府関係のイベントではこれらのどこかに属していると誤解を受ける発言はご法度だ。
だがこれについては日本とて同じことなので特に問題ない。
僕はパスターZにこう問うた。
「それら三つのどこにも属していないが、本質的にキリストを信じている、という立場の人々はいないのですか?」
すると僕の目をじっと目彼はこう言った。
「だから神があなたを遣わしたのだ!」
彼はこう続けた。
エチオピア人はどれかに属しているから、その自分たちが、何か発言すればかならず反目がある。しかし日本人のあなたはどこにも属していない。だからあなたは何を発言してもいいのだ。
ラリベラの聖地にいくと聞いたが、これは歴史的なことだ。
伝統主義に陥っている彼らには、誰も発言できない。そういう場所だ。
しかし、そんな場所で演奏のために受け入れられたというのは、我々の理解を超えた目的のために神がHEAVENESEをこの地に送ったのだ。
だから、心にあることを臆することなく、安心してぶつけてほしい。
日本人だからこそ、必ず伝わるだろう!
恐れも惑いも吹き飛んで心が定まった!!
彼の言葉に腹の底から力が湧いた。
3年前、宗教的に最も危険な「エルサレム」でも、我々の音楽とメッセージは熱狂的に受け入れられた。
だからエチオピアでもきっと大丈夫だと信じてここまで来た。
宗教国家で「神が遣わした」という表現は重い。
『そうか。神はこの複雑な国に日本人だからこそ通じるメッセージを発するために送ってくれたのか』
このとき僕はエチオピアツアーが成功したと確信した。
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