Story

エチオピアツアー奇跡の

10日間を徹底レポート

  • Marre

19.神の山/奇跡の日 その②

具合の悪い二人を空港まで下山させるのは車移動とはいえ負担がかかる。

休んでいる方がいいのではないかとも思った。

しかし、彼らは二人とも、手足のしびれがあって、あきらかな高山病の症状も出ているから危ないと。

まずは山から下ろして2時間くらい様子をみて、戻れるようなら午後から合流させる、というのがディレクターと撮影の安間氏の提案だった。


世界遺産で撮影をすることは、今回のエチオピア遠征における大事な目的の一つだ。

そのためにわざわざ撮影のために安間氏は同行してくれているのだ。

僕としては、下ろすことに内心は賛成できなかったが、万が一にもそれで良くなり、後から撮影に合流できるのならばよいと思い、彼らを下ろす方向で同意した。


「手足のしびれなんて僕もありますけどね。それでも大丈夫ですよ」


僕はそう言って笑った。

とりあえず10時にメイクを始めてくれというので、時間少し前にメイクへ部屋に向かうために自室を出た。

すると強烈な油の匂いが鼻をつき吐きげが盛り返してきた。

台湾名物「臭豆腐」匹敵する匂いだ。

昨日まで大丈夫だったが、今朝の体調では吐き気だけを助長した。


倒れこんでダウン

僕は口をおさえてメイク部屋へ走った。

光が入るベランダでマキのヘアメイクが進行中だった。

だが寒すぎるので中にしてくれと机を中に移動してもらった。

そうこうしているうちに、具合が悪くなってきてベッドに倒れこんで動けなくなった。

呼吸が苦しく吐き気とお腹の張りが最高潮に達してきた。

すぐに回復するだろうと思いつつ横になったが、それからどのくらい横になっていたのか

覚えていない。

完全にダウンしてしまった。



いろいろな人が部屋に来たのは覚えている。

皆、僕がぜえぜえ喘ぎながら倒れている姿をみて一大事だと思っていた。

幸い、久美子に線維筋痛症の痛みが出ていないので全ての人とのやりとり、段取りの調整など一生懸命動いてくれた。

しかし同時に、久美子もメイクをしなければいけない。

スケジュールをどうするのか。

僕が倒れてしまったことで、久美子が段取り確認に奔走した。

なんと久美子のアシスタントも倒れ、衣装の一人も倒れ、みな山から下りていったという。

我々夫婦のアシスタントとして帯同してきた者が戦線離脱で、久美子の手足となって動くものがいない。



マレを下山させろ!

久美子が自室に戻り準備に取り掛かろうとすると、 ヘアメイクの佐野が駆け込んできたいう。

「まれさんがもっと悪くなって熱が出ている」

僕は佐野に熱があるんじゃないかなと言ったことは覚えている。

ここまでくると、あぶないから僕も山から下りた方がいいとディレクターたちも言い出したらしい。

酸素レベルが86まで下がり、この状態だと脳に損傷が来る可能性があるという助言をドクターから受け、現場責任者として当然の判断をした。

その他のメンバーはすでに現場に撮影を開始している。

朦朧とした意識の中で聞こえてきたのは、現場からドライバーを一人まわして、僕を山から下ろすために運ぶ段取りをしていることだった。

毛布をにくるんで四隅を持ち上げ運ぶらしい。

久美子も空港まで降りるために部屋に戻り準備を始めたときだった。



大変です!

そこに、メイクの佐野が走り込んできて慌てた様子でこう言いう。


「大変です。まれさんが、空港にいかなない。もう治ったからメイクを開始するといっています。久美子さんしか説得できません。今すぐに来てください」


それを聞いて久美子は走った。

すると僕がベランダに出て仁王立ちしているのが見えた。

「神が触れてくださった」

そう言ってメイクを始めるよう指示する僕の姿を見て、久美子もヘアマイクの佐野も

尋常ならざることが起こったと確信した。

それまで、パンパンにはれていた顔が元に戻り、紫色だった唇に生気が戻っていたのだ。



語りかける声

何が起こったかを伝えよう。

人々が僕を山から下ろす段取りを始めたことがわかり、いよいよ20分後にドライバーがくるとわかったとき、僕は心の中で神に向かって叫んでいた。

こんなことで山から下りるなんていうことがあったらなんの証にもならない。

今朝早くにあなたが語ってくれ癒されたのは何だったのだろ‥‥と。

僕は朦朧とする意識の中で力を振り絞って、自室から持ってきたパソコンを開きWonderful Mercifful Savorをかけた。ネットがつながっていて幸いにもすぐにかかった。

音楽の中にある神の息が再び心と霊に染み込んできた。

するとそのとき、声が響いた。

その声ははっきりと意識の中に響き渡ってきた。


私が目を留めるものは、へりくだって私の言葉におののくものだ


古代イスラエルの預言者イザヤに対して、神が語りかけたことば。

それが時空を超えて強く焼き付けられるように耳に響いた。

それと同時に、突如強烈が悔い改めの思いが湧いてきた。

僕は「牧師」という立場で神の言葉を教えているのに、本当に神の言葉に「おののいて」いたのか。どれほど、おののく者であったかと。

それは霊的な悔い改めだ。

涙が溢れた。

そして脳裏には、シナイ山でかつてモーセが十戒を授かったとき、イスラエルの民が山の下で堕落し、金の子牛を礼拝している情景が鮮明に浮かび上がった。

それはまるで目の前で展開している出来事のようだった。

神の山で一人「いと高き存在」とあいまみえるモーセと、目に見える神を求めて金の牛を作った民との間にある隔たりの物語がリアルに山をおりるとは、神の臨在から堕落し「妥協」することだ。


僕はチームの全員にことあるごとに「これはかみごとであってただのエンターテイメントではない」と伝えてきた。

奉納演奏にも力を注ぎ、神から与えられた音楽を神にお返しするという姿勢を徹底して守るように毎回毎回ステージにあがる前、メンバーと心を一つにしてきた。

牧師であり「神ごと」としての一座を率いるものが、神の山を下るなどということはあってはならないのだ。


すると、苦しみの中で別の言葉が窓から差し込む日光のように魂の奥にまで入ってきた。


彼らは、 主の恵みと、 人の子らへの奇しいわざを主に感謝せよ。詩篇 107:8



そうか。彼らは主の奇しいわざを感謝するのか。

人々が、主の素晴らしさを感謝する。


このとき僕は悟った。

これら全てはそのために起こっているのだと。


僕は山から下りる必要はない。

僕がこの状況からたちどころに癒されて、予定取りにスケジュールをこなすことこそが主の思いであるのだと。



山を降りた先に

ちょうど時を同じくして、ドクターに付き添われて下山した面々も奇跡を体験していた。

下山しても、行く場所がない彼らは車の中で瀕死の状態で横たわっていた。

その異様な姿に、地元の人々がなにごとかと車を取り囲んでいた。

Tomokoの酸素は67まで落ち込み、高熱が続いていた。

としこさんは、専門医としてできることはやっていた。

しかし、もはやお手上げだった。何もできない。

酸素レベル67は危険すぎて、死ぬかもしれない。

そんな絶体絶命の大ピンチに直面していた。

あまりの具合の悪さにトモコもどうしていいかわからず泣いていた。

としこさんも、もはや医療的な措置としてはできることがなくなったから、ただ涙の中で祈っていた。

地元の人々は「何か手伝うことはないか」と聞いてくる。

そのときとしこさんは言った。


「彼らが癒されるようにいのってほしい!」


すると見ず知らずの日本人のために、集まっていた人々がみな真剣に祈り始めたのだ。

伝統的エチオピア正教の中で生きている彼らにとって祈りは日常だった。

するとドクターの目の間で奇跡が起こった。

彼らの祈りにあわせるように、酸素レベルがみるみる正常値にまで上昇し、高熱がひいていったのだ。

さらに、人々は自宅を解放し彼れらを介抱してくれた。

どんな感染症かもわからない病人をまるで自分の家族のように迎え入れてくれたのだ。



山から降りないことを決めたとき


神の言葉は医療に先出つ。

この働きは、医療に支えられるのではなく、神の言葉におののくものによって支えられなければならない。

僕の心は定まった。

僕は山からおりない。

主がそう語っているのだから。


この時僕はこの世にいたのか天に昇っていたのかさえよく分からない。

しかし明らかに、僕の意識は部屋から出て時空を超えた旅に出ていたように思う。

しかし、そう決めて立ち上がろうとしたとき、自分が重い重力の押し潰されるような

感覚を味わった。

力がでない!

ただただ大きな苦痛だけが再びよみがえってきたのだ。

ああ、そうだった。僕は苦しんでいたのだ。



まるで旅をおえて体の中に戻ってきたかのような感覚だった。

そのとき僕は、生涯わすれることのない声をきいた。

「立って、床を取り上げてあるけ!」


声はそう命じた。

しかし立ち上がる力がない。

僕は言った。

「主よ、お言葉を」


それと同時に同じ声が響いた。

「立って床を取り上げて歩め」


僕は再び迫った。

「お言葉を」

すると再び同じことばがあった。

「立ってとこをり上げてあるけ」



信仰はまず信じることだ。

信じる心が行動に先立つ。

僕はつねづねこれを教えている。

僕は相変わらず苦しみの絶頂の中にいたけれども、そう悟ったとき起き上がった。


するとちょうどそこに、ヘアメイク佐野が戻ってきた。

「今からメークします。山からはおりません」

そういうと力が上から注がれるのがわかった。


僕はベッドから降りて立ち上がった。

ベランダに出とみるいる力がわいてきた。

久美子が慌ててはいってきて心配している。

しかし僕は言った。

「主が語ってくれたのだ。大丈夫。主が触れてくださったから」


その様子をみて、久美子も確信した。

あのひどい状況から、たちまち、一瞬のうちに立ち上がるというのは、普通のことではないと誰が見ても思えたのだろう。

しばらくすると安間氏とDirectorが入ってきた。

安間氏にことの次第を証した。

あまりにもリアルな瞬間的な癒しに涙が溢れる。

メイクのそばから、メイクがくずれる。

「しかたねいね」

そんな言葉を繰り返した。


そして、僕と久美子は無事に撮影に合流した。

下山したYutaとTomokoは間に合わなかった。


世界遺産、ラリベラ。

ここはまぎれもなく神の山だ。

この場で撮影したものには、下山した二人以外のメンバーが写っている。

彼らが入っていないのが残念だ。

だがこれは、この日、我々はこの山で奇跡を体験したことを忘れないための

しるしである。


マレ、クミコ、そして下山したTomokoとYuta抜きで行われた撮影のワンショット



そして、奇跡的な癒しの後、マレ&クミコが合流して撮影は行われた


翌日、無事に行われた本番


無事に全員で終えた本番直後、神の山に沈む夕日に照らされた夕日の美しは格別だった


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